ɯhɥm
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2009年7月25日、鳥海修講演@出版UD研究会、うろおぼえメモ (4)
文麗仮名と蒼穹仮名
- 本を作っている会社キャップスの依頼でつくった書体。文麗は日本の近代文学、蒼穹はカタカナの多い翻訳文学にマッチするような書体、というコンセプトで依頼を受けた。
- これは特注でつくりました。見本をみて気に入ったので使いたい、という方は、キャップスに原稿を入稿して書体を指定すれば、お使いいただけます(笑)
- 今日は文麗のほうを話します。
- (書体見本をみせながら)これは仮名の書体です。漢字には、たとえばリュウミンやイワタ明朝といった書体を使うことを想定していて、この見本でもそれぞれと合わせて組んだ例が載っています。
- この文麗という書体の設計では、新しいやり方を試みました。いままでのやり方だと、最初から大きい、8センチ角くらいの原字を紙の上で設計して、墨入れして、それをスキャンして直す、ということをやっていた。
- 文麗では、最初にかく字が2センチ角。おおまかな輪郭だけ下書きする。その上に、小筆でかいて線をいれる。筆による書の曲線を活かすやり方です。
- これが思いのほかうまくいった。筆の味がいいんです。一発でいい曲線がかけたりして「俺天才」と思った。
- 2センチ角の元の字をスキャンして、マックの上で拡大して、調整して、すぐにフォント化します。うち(字游工房)のエンジニアが、手早くフォントにするためのいいソフトを作ってくれたので、これがとても簡単にできる。
- マックでスキャンしてベクトルデータを出させて、それを直していきます。直すときは、イカルスというソフトで画面上で書体を直すんですが、それのスプライン補間がつかいにくすぎたので、URWにたのんで、イカルスのベジエ版を作ってもらいました
- それでフォント化して、小説の文章を組んで出してみるんですが、そうして見ると全然ダメ。2センチ角サイズで作って80ミリに拡大してもバランスとれてて、そこまでは俺天才って思ったのに、組んでみると全然ダメ。
- 一番ダメなのは、筆の文字っぽすぎるところですね。この「か」なんかひどくて、一画目と二画目が寄っていてわずかに小ぶりに見えてしまう、それが全然ダメ、活字になっていない。一個一個の文字がよくできたと思っても、こういうバランスは組まないと分からないんですね
- ここからまた紙の上でかくところまでもどって、やりなおします。文麗のばあい、この繰り返しが20回くらいになった。各バージョンのを全部残してあるんですが、このとおり、最初のバージョンが生き残っている文字はひとつもない。ひとつひとつの曲線もすべてどこかで書き換わっている。
- 文麗に関しては、カタカナはあまりこだわってないですね。20回のうちでもあんまり変わっていない、最初の方と基本的に同じ形の文字もある。カタカナは漢字と同じで理論的な形をしていて、あまり手を入れなくても大丈夫、というところがある。
墨入れの実演
溝引き定規を補助に使って、白抜きの下書きに小筆で墨を入れる
(動画1) http://www.jiyu-kobo.co.jp/movie/sumiire.mov via http://www.jiyu-kobo.co.jp/home.html
(動画2) http://www.youtube.com/watch?v=wPZhA7qnXiA
(以下、実演中、まわりを囲んでいる聴衆とのフリートークから)
- 小筆、やすいですよ。300円だったか。でも、長年使って来た筆は、変えられないですね。この長さがいいんです。他のところが作ってるのも試してみましたけど、長すぎて邪魔になるのが多かった。……あ、これ、職人ぽいですね(笑)
- 精華大学の講義でも、このセットを学生に渡して、書体を作る工程をやってもらってるんです。やらせてみるとおもしろいですよ、定規を上から当てるんですよ。おまえそりゃ意味ないだろと(笑)
- 書体設計には書道の勉強は必要だと思う。でも、書道をやっていくと、いつか、どちらかを選ばないといけないときがくる。枠にはめない文字と枠にはめる文字、どちらかを選ばないと中途半端になる。書体設計から書道に入って、書道にはまったらそちらを本業にしてしまう、というのもありじゃないですか。
- ロゴとか看板の字は書道の先生よりも筆耕士さんにお願いした方がいいですよ。書道はいかに枠からはみ出すかを追求してるというところがある。枠に合わせて書くのは筆耕士さんのほうがうまい。
- ウェイト変えるときは、けっこう作り直しです。(筆でW8くらいの太い「酉」をかきながら)例えばこれくらい太い字だと、線と線がすぐくっついちゃうので、無理やりずらしたりします。(酉の二画目などで)一本の線なのによくみると途中でずれている、という風にせざるをえない。そういう風に理論的にいかないところがたくさんあるので……
- (「ディスプレイで表示するための書体」をどう作っていくべきかという質問に対して)最近の高精細な携帯の液晶を見てると、かなり細かくて、ほとんど読めないサイズでも、線が綺麗に出る。そういうのを見ていると、かえって、ディスプレイのための特別な書体は要らなくなってくるんじゃないか。
- ただ今日の聴覚障害者用の字幕にも使われてますが、黒字に白い線の方がみやすい、という場合がある。それに特化したにじみを持たせた書体、もっといえばそれを自動的に選べるような仕組みを作っていく、ということはユニバーサルデザイン的にも重要だと思います。
2009年7月25日、鳥海修講演@出版UD研究会、うろおぼえメモ (3)
本文書体(ほんもんしょたい)
- 最初の方にも本文書体が大事だといいました
- 本文書体とはなにか、どうあるべきか、これについては自分でもうまく整理できていない、なんとなく話すのでなんとなく理解してください
- 日本語の文は、5種類のことなる文字を使います。漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベット・記号
- 日本語の本文書体では、それぞれの文字種に違う系統の書体を使いながら、一つの紙面に並べます、なぜかそうします
- これはほんとに不思議だけど、とにかく、そうじゃないと不自然
ゴシックでは5つの文字種にほとんど書風の違いは出ない。でもゴシックはふつうの本文書体にはなりません。たとえば小説をゴシックで組むと書体の主張がどうしても強くなる
書体、特に本文書体に、よいわるいはあるのかというと、あります
- (3種類の書体見本をみせる)
- 最初の書体ですが、この書体は、画数の多い字が黒すぎ、画数の少ない字が白すぎます。ちなみにこの書体は「MS 明朝」という書体です。
- こういう書体でいろんな漢字をびっしり並べてみると、画数の多い文字のところで紙面にムラがみえて気になります。それに、画数の多い字がつぶれて読みにくく感じます。
- 2つめと3つめの書体はそんなことがなくて、簡単な字と複雑な字での、黒さの差が少なくなってますね。(小塚明朝とヒラギノ明朝だったとおもう、スピーカーの鳥海さんはヒラギノつくった人)
ちゃんとした書体ではこうやって、画数の多い字で線を細くしてやっています、そうして字紙面でのムラを少なくしています
書体の完成度が高い低いというのは、やっぱりあるんです。その目安として、まずは、これが守られているかどうかが重要:
- 線の太さについては、(細い) 漢字 < ひらがな < カタカナ < Alphabet (太い)
- 字の大きさについては、(大きい) 漢字 > ひらがな > カタカナ > Alphabet (小さい)
画数の多い字と少ない字のあいだで、マスの中の黒の量にバランスがとれているか、極端な差がないか
書体がいいかわるいかは、目的に合うかどうかによっても変わります
- ひとつめは、書体のイメージと利用するジャンルのマッチング。たとえば文麗仮名は、近代日本文学のために作りました
- ふたつめは、書体の機能と利用する場所のマッチング。ディスプレイに映すのか、新書判に印刷するのか、でかい看板に使うのか。
ユニバーサルデザインの書体
- 視認性がいい、ぼやかしても読める書体
- 弱視の人でも読めるように設計されている
- 注意してほしいのは、ユニバーサルデザインは「どこでもつかえる汎用デザイン」「この書体を使うだけでユニバーサルデザインになる」じゃないということ
- たとえばこの京都駅で配っていた観光パンフですが、「ユニバーサルデザインの書体を使っています」と書いてあるんですが
- こんなに細かい文字でびっしり文章が印刷してあります
- これは違うだろう、と。そもそも UD(ユニバーサルデザイン)フォントは、長い文章を組むようには作られていないんです
- いろんな書体メーカーが UD フォントを出してますね、モリサワとか、大日本スクリーンとか。何年か前、新聞の書体がこぞって変わって大きくなりましたが、あれも同じ流れだと思います
- だいたい共通しているのは、文字を大きくする傾向にあるということ、ぼやけたときに字画がくっついて見えにくいようにしているということ
- たとえばこの”C”と”O”を比べるとわかりやすい。C がぼやけたときにつながってOの形になるのはまずい、だから、Cの最初と最後の角度を変えて、Oにならないようにする
- そういう設計をするとトレードオフというのが必ずあります。
- 基本的に、UDフォントは、短い言葉の看板とかタイトルとか、文字の取り違えが起こると困る、という場面で使うものです。これを本文書体に使うと、形にちょっとした違和感があったりして、見た人が引っかかってしまう
- 一時期のK社文庫がその意味でひどかった。私は、そのとき読みたい本がK社文庫だったら絶対買わなかったくらい。
- 書体そのものはとても良かったんです。でも組み方が、とにかくひどい。「見やすくなる」と称して、書体を大きくして、でも1ページの字数を変えてなかった。その代わり、行間を詰めていた。こういうことをするとひどく読みにくくなる。
- 話を聞くと、犯人はK社じゃなくて、そこに売り込んだ書体メーカーの営業の人だったらしい。「見やすくします」と言って、大きくした書体を売り込んだらしい。
- いまのK社文庫は改善されて、よくなってます
2009年7月25日、鳥海修講演@出版UD研究会、うろおぼえメモ (2)
日本語の文字の歴史
- 日本語の文字をやるには、まず中国から始めないといけない
- 甲骨文字。殷墟でみつかった紀元前15世紀のが最古。これは基本的に引っかいてかかれた文字で、まだ筆じゃない
- 金文(きんぶん)。土の型に彫って、鋳造していた文字。
- 甲骨文字も金文も、今でもすこし読めちゃう文字がありますね。これは「王」っぽいとか「子」っぽいとか
- 石鼓文(せっこぶん)。ここまでは、彫られたり刻まれたりした文字です。
- 篆書(てんしょ)。始皇帝がつくらせた書体。いまでもハンコで使われてますね
- 篆書から筆の字になる。このころの筆は今みたいに使いやすくなくて、例えば「はらい」は書けなくて全部の画で行って戻って止める、をやらないといけなかったと言われてます
- 隷書。奴隷が発明したということになっている書体。篆書より書きやすくて人気が出た。三国志あたりの時代にはよく使われてた。『レッドクリフ』でも関羽がこれを書いてて劉邦が「おまえ書はうまいな」といってたり。
- 楷書。隷書と楷書の中間的な書体ということで有名な爨宝子碑(さんぽうしひ)。
- 顔真卿(がんしんけい)の楷書。
王義之(おうぎし)。書聖、書道の神様。この人の書だと言われるものはひとつも現存していない。ある時代の王が死んだとき、彼の書を全部墓に持っていったといわれている。いまあるので一番忠実な模写といわれるのは、この虫食いで消えた部分までそのまま移してある模写。
ここから日本に入ります。
- 空海の書簡。ここにはいろんな書風がはいってる、この字は隷書、この字はがんしんけい、とか。
- 空海は中国に留学(遣唐使船に密航)して中国でずっと勉強した
- 最澄はすぐに日本に帰ってしまっていた
- 空海は中国でまなんだ書の知識おみせびらかしたかったんじゃないかとおもう
- このときの字は完全に中国の字
- 小野道風(おののとうふう)
- 和様のはじまり。この、紙をなぞって書くのが、和様なんです。横画をまっすぐ書かず、ゆるやかな波が入る
- 中国では、最初に引っかく文字、彫る文字ができて、そのあと筆の文字が出た、だから筆圧が強い、字はかっちりしていて、幾何学的な形をしている
- 中国の書は入木(にゅうぼく、じゅぼく)の書だといわれます
- 日本の書は、彫る段階はなくて「いきなり筆」からスタートした
- 紙を筆で軽くなぞって書く、筆を自由に動かして書く文字
- かな。漢字の音を借りて、形を崩してできた文字ですね。
- 女の人が作って広まって行った
- 日本の文字は女の人が作っている、ギャル文字もそう
- 男は女が作った文字をあとで使い出す
連綿体。中国からきた漢字はもともとどれも正方形の形。かなは、細長かったり小さかったりつながったりする、むしろ正方形から抜け出そうとする
明朝体。江戸時代に使われだした。
- 萬福寺の写本。明朝体活字の版木として現存している一番古いもの。(たぶんこれ http://www.obakusan.or.jp/culutre/culture2.html )
- いまもこのお寺にいくと、この版木で印刷されたものが買えます
- ただしこの版木は、中国で作られたものを模造したものなんです
- 明治時代になって、活字で漢字とかなを組むことが本格的に始まった
- これは初期の印刷物のひらがな。全部ひらがなで印刷された新聞です。ひらがな1文字を正方形のマスに入れようとはぜんぜんしていなくて、いろんなところがつながっている、連綿体から抜けだしていない
- こちらは、ひらがなも全部正方形になってる、漢字とかなを混ぜて組んだもの。漢字は明朝。だいぶ今の印刷物に近いけど、まだひらがなには筆の文字っぽいところがありますね。
- 明朝体にはもともとひらがなはないんです、いまの書体でも、明朝体のひらがなは、実は楷書に近い書風をしている。
- 完全に明朝体の書風にされたひらがなも、このころに作られたことがあります、でもなぜかダメなんですね
- 明朝体の漢字と、ホントの明朝体のひらがなを合わせて組んで印刷すると、読んで何か引っかかる、ヘンだと言われる、使ってもらえない。
2009年7月25日、鳥海修講演@出版UD研究会、うろおぼえメモ (1)
鳥海修(とりのうみ・おさむ)
- 多摩美に二浪して入った。そのころはプロダクトデザインをやりたかったけど、入れなかったのでグラフィックデザインに。
- ポスターとかには全然惹かれなかったが、レタリングに出会ってこれだと思った。
- そのときの先生が篠原栄太先生、最近だと『官僚たちの夏』の題字を書かれてます
- 当時毎日新聞で書体を作っていた、小塚昌彦さんたちの仕事場を見せてもらった
- そこで、はじめて活字制作というものを知った
- 見たのは、活字の原字をとにかく精密にかいているところ
- すごくきれいな字だと思った。最初見たときは「この人は、なんでここまできれいな字をかこうとしてるんだろう」と思った
- 社会にあふれている新聞や小説の字の形を、一個一個、人間が手で作っているという衝撃
そのときまで、活字を人が作ってるなんて思ったことがなかった
小塚昌彦「文字は水であり米である」
活字というのは、いまの人の知的活動の基礎になっていると思う
- 思想とか哲学とか、すべて書物を通して学んでいる、そして書物は活字でできている
- もちろん内容が第一、だけど活字の良し悪しによって伝わり方が変わる
- だから、活字、とくに本文書体(ほんもんしょたい)はすごく大事
- 空気や水のように、存在を感じさせない文字が理想
文字の官能性、書物としての身体:DESIGN IT! w/LOVE
そもそも「文」という文字そのものが、文身(イレズミ)を意味する字であり、人の胸部に心臓の形の文身を加えた象形です。




